漢字の書字習得が高度な言語能力の発達に影響を与えることを発見、漢検協力の京大研究プロジェクトより

公益財団法人 日本漢字能力検定協会(本部:京都市東山区、代表理事:髙坂節三/以下、漢検協会)が協力している京都大学の研究プロジェクト「ライフサイクルと漢字神経ネットワークの学際研究」において、

  • 「漢字能力の3つの側面(読字、書字、意味理解)の習得には、部分的に異なる複数の認知能力が関わっている」こと
  • 「漢字を手書きする力の習得(以下/書字習得)が、高度な言語能力の発達に影響を与える」こと

が発見されたことを発表した。

「ライフサイクルと漢字神経ネットワークの学際研究」成果概要

この研究成果は、京都大学大学院医学研究科 大塚貞男 特定助教、村井俊哉 教授の研究グループによって報告されたもので、2021年1月26日に本研究論文が国際学術誌「Scientific Reports」にオンラインで掲載され、1月27日に同大からプレスリリースされた。

本研究は、大学生の漢字の読字、書字、意味理解の能力と、基礎的な認知能力、言語的知識の習得度(※1)、文章作成能力との関係性について統計的に解析したもの。

これに先立ち、同グループは日本漢字能力検定の受検データベースを分析し、漢字能力が3つの側面から成ることを明らかにしており、本研究はその発見に基づいておこなわれた。

(※1)言語的知識の習得度:本研究では、ウェクスラー式成人知能検査の語彙力、一般教養、算数能力を測る検査項目を用いて得点化したものを採用している。

子どもの認知特性を考慮した漢字学習指導の必要性

解析の結果、漢字能力の3つの側面の習得には部分的に異なる複数の認知能力が関わっていることが発見された。

この研究成果は、日本に6~7%いるとされる漢字習得に困難を抱える子どもたちに同じ指導方法を適用することは効果的とは言えず、習得が難しい漢字能力の側面とその要因(苦手な認知能力)を考慮した教育ストラテジーが必要であることを示唆している。

漢字の書字習得が高度な言語能力の発達にとって重要

本研究では、漢字能力の3つの側面の中で「書字習得」が高度な言語能力の発達と関連し、漢字書字能力が高い人ほど、結果的に文章作成能力が高くなることが発見された。

この研究成果は、小学校から高校までの間の書字習得が、その後の高度な言語能力の発達にとって重要であることを示唆している。

学童期の読字・書字習得が、老年期の認知能力維持に役立つ可能性

本研究では、文章作成能力の指標として「意味密度」(※2)を採用している。

これは米国において修道女の認知能力の長期経過を分析したナン・スタディと呼ばれる一連の研究(20代前半に「意味密度」の得点が高かった人は老年期における「認知予備能」(※3)が高く、アルツハイマー病による脳の病変が進行していた場合でも晩年まで健全な認知能力を維持していたとの報告)に基づく。

本研究では、そうした知見を考慮に入れて、学童期の読字・書字習得(特に書字習得)から老年期の認知能力維持に至る生涯軌道に関する理論的フレームワーク(下図)を提唱した。

(※2)意味密度:文章の言語的な複雑さを得点化した指標。文章中の単語数に対する命題(動詞、形容詞、形容動詞、前置詞、接続詞)の数の比率として算出される。

(※3)認知予備能:アルツハイマー型認知症などによって脳に器質的な障害が生じた場合に、脳神経ネットワークを柔軟に利用して認知能力の低下に抵抗する能力を示す言葉。ナン・スタディで発見された若い頃の言語能力(意味密度)と老年期における認知能力の維持(認知症の発症リスク)との関連性は、こうした知的能力の蓄えによる保護的効果によって説明されている。

読字・書字習得から老年期の認知能力維持に至る生涯軌道

本研究成果を受け、同グループは、「本研究成果は、早期のデジタルデバイスの利用が漢字の書字習得に抑制的な影響を及ぼした場合、その影響は書字を必要としない様々な言語・認知能力の発達にまで及ぶ可能性を示唆している」と話している。

ICT教育は目まぐるしい進歩を遂げているが、学校教育、特に読字・書字教育に与える影響を考える上で貴重な指摘であると漢検協会では考えているという。

今後の研究プロジェクト支援について

本研究では、漢字能力の3つの側面に対して部分的に異なる認知能力が関わっていることが発見された。

漢検協会は、子どもたちの認知特性に応じた新たな教育手法の発信につながる重要な成果ととらえている。

また、本研究では、学童期の漢字学習が、知識習得、文章作成能力の向上や老年期の認知機能低下を防ぐ認知予備能へとつながる可能性も示された。

漢検協会は学童期の漢字学習の重要性をさらに啓発するとともに、引き続き本研究プロジェクトを支援していく予定。

本研究プロジェクトは、当初2017年からの3年計画で開始し、さらなる研究の深化のため2020年度から追加2年間の継続事業として行われている。