日本のグローバル化が進み、「留学をしたことがある」という人が増えてきており、今後も増えていく見込みです。
そういった状況で近年増加している「社会人留学」をご存知でしょうか。
その名の通り、社会人が留学をすることなのですが、何となく留学に行って何となく帰国する、せっかくの留学経験を活用できていない例が増えてきているのも事実です。
それが旅行やリフレッシュの目的であるなら問題ないですが、「キャリアに生かしたい」と思って留学した場合は元も子もありません。
この記事では、まず社会人留学について、留学の目的、費用、期間、メリットデメリットなどを紹介します。後半では、社会人留学の経験をキャリアに生かすポイントや、経験を活かしやすい職種を解説します。
「これから留学をしようと思っている」「社会人留学に興味がある」という方や、留学することで自分のキャリアチェンジを考えている方におすすめの記事です。
近年増加する社会人留学とは
社会人留学とは、その名の通り社会人が留学をすることです。
近年、国を超えた世界規模の繋がりや取り組みが行われ、日本はグローバル化が進んでいます。
グローバル化が進行する中で「留学」という選択肢がより身近になり、この記事をご覧頂いている方の中には「学生時代に留学した経験がある」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
文部科学省が2019年1月に発表した「『外国人留学生在籍状況調査』及び『日本人の海外留学者数』等について」によると、独立行政法人日本学生支援機構の調査による日本人学生の海外留学者数は105,301人(対前年度比+8,448人)でした。
学生時代に留学をする人が増えている中、「大学生の時に留学できなかった」「留学経験はあるが、別の目的のために再度留学したい」「仕事をする中で留学の必要性を感じた」などの理由から、社会人留学を検討する人が近年増加しています。
参考に、1991年に設立された留学事業団体である一般社団法人海外留学協議会(JAOS)は「『一般社団法人海外留学協議会(JAOS)による日本人留学生数調査 2017』調査レポート」の中で、以下のように述べています。
年々進む日本企業のグローバル化に伴い、ビジネスにおいて実践で使える英語コミュニケーションは強く求められており、企業の研修などで海外留学へ渡航する社会人も増えている。
また、20代および30代のキャリア志向の社会人の中心に有給休暇を使用した1-2週間の短期留学も増えているが、転職タイミングに今後のキャリアやライフスタイルを考えて留学を選択する社会人も増えている。
海外志向が元々なかった層も、観光インバウンド需要により日本国内に外国人が増え、観光業・サービス業を中心に語学留学のニーズは一層伸びていくであろう。
社会人留学のメリット・デメリット
メリット
社会人留学のメリットとしては、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 実践的なビジネス英語を学べる
- 語学以外にも気づけることが多い
- 海外生活を体験することができる
留学の醍醐味はやはり日本語が少ない環境で母国語と異なる言語を使用して生活をすることです。
特に社会人留学では、現場で必要なビジネス英語をより実践的に学ぶことができます。社会人経験のある人が留学することで、価値観や働き方など、日本と違う部分をビジネスの視点から感じることができます。
また、留学を仕事に活かしている方も多くいらっしゃいます。例えば、留学で実践的な語学力を身に着けて語学使う仕事にキャリアチェンジ、留学経験を活かした仕事にキャリアチェンジなど、今のキャリアに留学経験が活かされている例も多くあります。
デメリット
社会人留学にはたくさんメリットもありますが、当然デメリットもあります。ここでは、留学自体のデメリット(金銭的な負担がかかる等)を除き、特に社会人留学を考える際に検討してもらいたいことを挙げています。
- 中長期の語学留学などの場合、職歴がブランクになる場合がある
- 留学経験だけでは強みにならない
中長期で留学に行く場合、休職や退職に伴い職歴が空く期間が発生する場合があります。また、社会人留学経験自体がキャリアとして評価されるわけではないため、帰国後のキャリアに苦戦するケースは少なくありません。
社会人留学の選択肢は身近になってきていることから、留学経験があることは珍しいことではなくなってきています。今後のキャリアに社会人留学経験を活かすためには、「留学で得たものは何か」「それを今後何に生かすか」を留学前に考えておくことが重要です。
詳細は、後半の「社会人留学経験をキャリアに生かすポイント」で説明致します。
社会人留学の目的とおおよその期間
語学を習得するため
英語などの語学の習得を目的とする社会人留学は、いわゆる定番の留学の目的とも言えます。
社会人留学の場合、仕事で活かせる語学力が欲しい人や、留学で得た語学力をもとに転職を考えている人の利用が多いようです。休日と有給を利用して1週間程で短期留学する人、会社を休職・退職して長期留学する人など、留学期間が幅広い点が特徴です。
海外生活・異文化を体験するため
海外での生活や異文化を体験することを目的とする社会人留学は、リフレッシュしたり、いつもと違う土地で自分を見つめなおしたい人に多いです。期間は、1週間から2か月程度の短期間の留学が多いようです。
ホームステイや現地ならではのアクティビティに参加することで、その国の文化を体験することができ、海外旅行気分も味わうことができます。
ワーキングホリデーをするため
ワーキングホリデーとは、18~30歳の青少年が他国で働くことを認める制度のことです(年齢は25歳までの場合もあります)。日本は、オーストラリアやニュージーランド、カナダやイギリスなどの国とワーキングホリデー制度の取り決めを交わしています。
ワーキングホリデーの期間は最大で1年間になります。期間中は自分で自由にプランを作れるため、アルバイトをする、語学学校に通う、など様々な選択肢があります。
ワーキングホリデーを目的とする社会人留学は、海外で働く体験をしたい人や、留学費用を抑えたい人に多いようです。
インターンシップ・ボランティアをするため
インターンシップやボランティアをすることを目的とする社会人留学は、実践的な語学力向上を目指す人が多いです。
期間は、インターンシップの場合2週間~、ボランティアの場合1日~することができます。どちらも英語で業務を行うため、実践的な英語力のブラッシュアップができます。
大学・大学院・専門学校に通うため
大学・大学院・専門学校に通う社会人留学は、キャリアアップのためにより高いレベルの語学力や専門知識を身に付けることを目的とする人が多いです。
留学期間は、1~4年と長期間での留学になります。どの分野を学ぶ学校でも、選考の際には基準を満たす語学力が求められます。
社会人留学で特に多いのは、海外大学院でMBAなどの修士号を取るケースです。
社会人留学に必要なおおよその費用
ここでは、比較的短期留学が多い語学・異文化体験目的の留学と、中長期留学が多いワーホリ、大学等の進学にかかるおおよその費用を紹介します。
時期や目的、国などによって費用は変わりますので、あくまで一例として参考にしてください。
語学留学・異文化体験
国 | 期間 | 金額 |
フィリピン | 1週間 | 100,000円 |
1か月 | 200,000円 | |
6か月 | 1,000,000円 | |
カナダ | 1か月 | 250,000円 |
6か月 | 1,650,000円 |
ワーキングホリデー
国 | 期間 | 金額 |
オーストラリア | 1年 | 1,000,000円~1,300,000円 |
ニュージーランド |
大学、大学院、専門学校進学
国 | 期間 | 金額 |
イギリス | 1年 | 3,500,000円~7,000,000円 |
アメリカ | 2年 | 5,000,000円~10,000,000円 |
目的別に紹介、社会人留学に人気の国
語学留学は、英語ならカナダ・フィリピン、中国語なら中国
カナダ
「世界で最も住みやすい国」とされており、非常に留学先として人気があるのがカナダです。
JAOSの2017年度日本人留学生数調査によると、カナダへの日本人留学生数は約12,500人です。ネイティブの英語圏であるカナダでは語学研修プログラムが充実しています。
気候面では、大部分が亜寒帯・寒帯に属しているため、冬場は非常に冷え込む特徴があります。物価は日本より少し高いですが、治安も良く、バンクーバーやトロントなどが人気の留学先として挙げられます。
ナイアガラの滝やオーロラなど、観光として楽しめる場所も多くあります。
フィリピン
フィリピンは、安く語学留学ができるとして人気が急上昇しており、2017年の日本人留学生数は6,755人でした。公用語が英語であるため日常生活でも英語を利用することができます。
気候は熱帯性気候であるため、1年中気温と湿度が高いです。日本と比べると、物価は非常に安く、航空券代も比較的安いです。
一方で、治安は欧米や日本より悪いと言われています。リゾート地であるセブ島や首都のマニラが特に留学先として人気です。
島国であるため、ビーチを楽しむこともできます。
中国
中国では、近年国際語になりつつある中国語を学ぶことができる留学先として人気です。2017年の日本からの留学生は1,830人でした。
中国にはアジアでトップレベルの大学が多くあり、中国語を学ぶために留学する人は長期間でじっくり学ぶ人が多いようです。
中国は隣国であるため、気候や生活が日本と共通している部分があり比較的生活しやすい国と言えるでしょう。地方の治安はあまりよくないですが、上海や北京など都市部の治安は比較的よいと言われています。
異文化体験するなら、フランス・マルタ・シンガポールなど
フランス
異文化体験の場として、フランスは非常に人気があります。パリやボルドーなど、ヨーロッパでも人気の都市でおしゃれな街並みを楽しむことができます。
物価は他のヨーロッパの国同様高いですが、治安も良く気候も日本と似ていて四季があります。エッフェル塔やモンサンミッシェル、ルーブル美術館などが人気の観光スポットです。
2017年の日本からのフランスへの留学生数は1,455人でした。
マルタ
地中海の小さな島国であるマルタも、近年留学先として人気が高まっています。マルタでは、中世の街並みや遺跡、地中海を楽しみながら生活することができます。
治安が良く、物価も他のヨーロッパ諸国に比べると安いので、費用を抑えられます。また、ヨーロッパの中では珍しく公用語が英語であることも特徴の1つです。
2017年の日本からの留学生数は896人でした。
ワーホリの定番は、オーストラリア・ニュージーランド
オーストラリア
日本人のワーキングホリデー先として1番メジャーなのが、オーストラリアです。
最長2年までワーキングホリデー制度を利用することができます。また、他国に比べて賃金が非常に高いです。
公用語が英語で、シドニーなどには語学学校が複数あります。
季節は日本と逆で、穏やかな気候です。治安も良く、住みやすい国ですが、物価は高いです。エアーズロックやグレートバリアリーフなど自然豊かな観光地も楽しめます。
2017年の日本からの留学生数は、17,076人で、アメリカに次ぐ2位でした。
ニュージーランド
オーストラリアの隣国であるニュージーランドも、ワーキングホリデー先として非常に人気があります。
小さい島国であるニュージーランドは、大自然が広がり治安も良いため、のんびりゆったりした生活を楽しむことが出来ます。オークランドやウェリントンが人気のある都市として知られています。
また、大自然に加えラグビー観戦などを楽しむこともできます。2017年の日本からの留学生数は5,672人です。
インターンシップ・ボランティアをするなら、マレーシア・カンボジアなど
シンガポール
インターンシップのための留学先として人気の国、シンガポールを紹介します。
シンガポールには多くの外資系企業が集結しており、グローバルビジネスの中心地となっています。また英語と中国語、両方を使う機会があります。
シンガポールは治安が良く、国民の教育水準も高いです。一方、物価が高いため滞在には費用がかかります。
気候は熱帯で1年中暑いです。マーライオンやマリーナベイサンズが観光スポットとして人気があります。
カンボジア
海外ボランティアの留学先として、メジャーな国がカンボジアです。
村の子供や孤児への英語教育などのボランティアがあります。治安は日本や欧米と比べると悪く部分が多く、先進国との違いを実感できます。
物価は非常に安く、気候は年間を通して高温多湿です。有名な観光スポットは、アンコールワットや負の遺産であるキリングフィールドがあります。
大学・大学院・専門学校に通うなら、イギリス・アメリカなど
アメリカ
大学や大学院の留学先として強い人気を持つのがアメリカです。2017年の日本人留学生数は17,894人でした。
アメリカには、世界ランキングでトップレベルの大学が数多くあり、様々な分野を学ぶことができます。
外食などは日本と比べると高いですが、物価自体は日本とそれほど変わりません。治安や気候は都市によって大きく異なります。
留学先として人気の都市は、東側ならニューヨークやボストン、西側ではシアトルなどです。
イギリス
イギリスもアメリカと同じく、大学・大学院留学先として人気の国で、2017年の日本人留学生数は6,648人でした。
ヨーロッパで数少ない英語の本場であるイギリスにも、オックスフォード大学やケンブリッジ大学といった世界トップレベルの大学が多くあります。
物価は日本より少し高いですが、治安は安定しています。気候は、天気が変わりやすく雨が多い特徴があります。
イギリスにはビッグベンやバッキンガム宮殿など有名な観光地があり、また、イギリス留学中にほかのヨーロッパの国々を回ることができる点も人気の要因になっています。
社会人留学経験をキャリアに生かすポイント
前提として日本で転職する場合、実務経験が最重要視され、留学経験は武器になりません。
社会人留学経験をキャリアに生かす場合は、留学で得た内容にもよりますが、基本的には「1つのアピールポイント」や「+α」「話のネタ」と思っておくとよいでしょう。
とはいえ、せっかくの留学経験なので少しでもキャリアに生かしたいという場合は、以下の3つのポイントを意識してください。
留学で学位、資格を取得した場合は履歴書に書ける
留学して学位や資格を取得した場合には、履歴書の「学歴」「免許・資格」の欄に記入しておきましょう。
特に、取得が難しい資格や学位は取得するために自分が努力した内容や方法を併せてアピールしやすいです。
「課題が見つかったときに、このように乗り越えてこの成果を得られた」等、自分なりの解決方法があれば、尚良いです。
語学力は数値化して証明する
語学習得を目的に留学していた方は、語学力をアピールしたいという方も多いでしょう。
その場合は、留学前後に語学力を数値で証明できる資格や試験を受験しましょう。例えば、TOEICやTOEFL、中国語検定などが挙げられます。
留学前のスコアと留学後のスコアを比較することで「留学で語学力を身に着けてきたこと」を証明できます。
大手企業や社内公用語が英語の企業などは、求人の募集条件に「TOEIC800点以上」などを設けている場合もありますので、高得点であればあるほどキャリアの選択肢は広がります。
「留学経験」は自己紹介の1つにする
先述したように、海外留学をする人は増えており、「海外留学をしただけ」と判断され、評価されないこともあります。
そのため、留学経験は、アピールではなく自己紹介の1つとして使うとよいでしょう。
例えば、希望する職種に興味をもったきっかけの1つとして留学経験があると、志望動機の説得力が増します。
社会人留学経験を活かせる仕事

社会人留学について説明してきましたが、ここからは実際に社会人留学経験を活かして働くことができる仕事を具体的に紹介していきます。
社会人留学経験を活かして働く場合、日本国内で働く場合と海外で働く場合の2パターンに分けられます。
日本国内で働く場合
- 留学カウンセラー、留学コーディネーター
- 貿易事務
- 英会話講師、英語教師 など
留学カウンセラーや留学コーディネーターは、留学エージェントなどに所属し、留学をサポートする仕事です。自分の経験談を相談者に伝えることや、海外の提携校とのやりとりで英語力などで、留学経験を活かすことができます。
貿易事務は、貿易に関わる企業の事務です。一般的な事務職との違いは、専門性が高く、語学力が求められる点です。社会人留学を経験した方は、得意とする語学を活かして貿易事務として活躍しています。
英会話講師や英語教師は、その名の通り英語を教える仕事です。勤務先は教育機関や英会話スクールなど幅広いです。英語が話せる日本人は生徒の発音しにくい語句の発音方法や英語学習でつまずきやすいポイントがわかります。自分の英語学習の経験を活かして、教師として働いている方が多いです。
海外で働く場合
海外で働く場合には、どの仕事においても留学で得た経験を活かすことができます。また、海外で働く場合の具体的な職種の選択肢はとても広いため、一概には言えません。
一例を挙げるとすれば、業種を問わず日本企業の海外駐在員や海外の日本語学校の教師などが挙げられます。
どの仕事でも、留学経験で培った語学力、異文化への理解、コミュニケーション能力、専門スキルなどを活かして働くことができるでしょう。
社会人留学経験を自分の強みの1つに
- 社会人留学の期間は、1週間程度~1年以上の長期まで、様々な期間がある
- 社会人留学には、語学習得目的のほかに、ワーキングホリデー、大学・大学院留学など様々な目的がある
- 留学には必ずメリット・デメリットがある、特に社会人留学の場合は留学経験=ステータスではないことに注意する
ここまで説明してきたように、社会人にも留学という選択肢があり、様々な留学の形があります。
それぞれメリットとデメリットがあるため、自分がどのような形で留学したいのかを考えて意思決定を行いましょう。
また、留学から帰国後日本で働きたい場合は特に、留学経験がイコールでステータスにはならないことに留意して、今後のキャリアプランを考えておくと良いでしょう。